インソースを「研修講師を派遣する会社でしょ?」と言うのはアマゾンを「倉庫で本を仕分けする会社でしょ?」と言うようなもの

 6200 インソースのビジネスに関する考察。大半は以前のツイートのまとめ。ポジト全開注意。

なぜ社会人研修には大企業がないのか?

 企業研修の市場規模は一説には約5000億円ともいう。定義次第でかなり変わりそうなので参考程度にしておいた方がいいと思うが、それでもインソースのシェアはまだ1パーセント以下でしかない。

 これまで企業研修の大企業が存在しなかった理由はなんだろう。学習塾や予備校と比べて考えてみよう。

 学習塾の場合、小中学生に教えるべき内容は国で決まっていて、全く多様性はない。しかし、受験目標たる学校には大きな地域性がある。だから大企業の支部または地域ドミナントの中企業が最適解になるだろう。実際そうなっている。

 資格試験などの予備校も、基本的に教えるべき内容に多様性はない。地域性の代わりに資格(など)ごとの差があるだけで、塾に近い。

 企業研修・社会人研修はこれらとはまったく違う。カリキュラムにものすごい多様性がある。基礎ビジネスマナー・メンタルヘルス・セクハラ・パワハラあたりまではともかく、極端な話、この世の仕事の数と同じだけの多様性がある。

 もちろん地域性もある。さらに、子供の数に比例して必ず需要がある塾や、一定の需要がある資格試験などとも違い、景気やブームの影響ももろに受ける。

 これでは大企業といえども全部を網羅することなど不可能だし、仮に中小企業が特定の地域やテーマでドミナントすることができたとしても、不況やブームの狭間で潰れてしまい、それを維持することはできない。

 これが研修の大企業が存在していない(してこなかった)理由と考えて大きな間違いはないと思われる。

従来の研修はどのように行われていたか?

 では(少なくとも塾や予備校のようには)専門企業が対応できない中で、実際に研修はどう行われてきたか?

  • 当の仕事をしている本人達でやる(OJT)
  • 引退した人・ドロップアウトした人等がやる(ボランティア)
  • ビジネスマナー等の一般的なものは人事部等でやる

 大体こんなところだろう。どれも広義の「兼業」とくくれる。

 そして当然だが、兼業でやる人が講師として最適か、その研修内容がベストかと言えば、もちろんそんなワケはない。どちらも専門家がやった方がいいに決まっている。できるなら。

 現在広く存在する研修に対するマイナスイメージは、私自身も持っていたようなそれは、こういった兼業講師によるやっつけの研修から来ている部分が大きいだろう。

 そして研修の品質が安定しない・予測できないということは、研修の需要自体を抑えていた要因でもあると思われる。

 これは実体験から間違いない。私は何年も前から、一度プレゼンテーション研修のようなものを受けたいと思っているのだが、高い金と時間を投資して下らない研修に当たる可能性を恐れ、未だに実行に至っていない。

講師とコンテンツ制作者を分離すればどうなるか?

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 コンテンツを作る専門家と講師の専門化に分離すればどうなるか。特にコンテンツ制作集団を社内に抱え、専門講師とそれぞれ契約し、ITによってそれを結びつけるようにすればどうなるか。

 研修内容の多様性・地域性は問題ではなくなるだろう。コンテンツを提供されて、各専門講師が自分から近い場所に行けばいいだけだ。情報が古いとか資料がしょぼいとかいう問題もなくなるだろう。品質が安定化するという利点もある。

 景気やブームの影響も、なくなりはしないが、分散化され致命的でなくなるだろう。最悪の場合でも、その分野しかできない講師の契約がなくなるだけだし、講師の方も、コンテンツ制作をしなくてよい分、比較的広い分野に対応できるだろう。

 コアはもちろんコンテンツの方だ。コンテンツから見れば講師の替えは効くが、講師から見ればコンテンツや営業のサポートがないと成り立たない。

 インタビューでも出た話だが、情報(コンテンツ)はいくらコピーしても、いくら使っても減らない。減らないどころか使われるほど増える。

 同じコンテンツを何人もの派遣の講師が使い、Eラーニングで使い、サイトで公開して撒き餌にして、コピペ改変してまた別のコンテンツにする。

 それらコンテンツはずっと会社の物として留まる。薬の特許さえ20年で切れるというのに、著作権は事実上永久に残る。(これは変だと思うのだが変わらないだろう。)

 A社の悩み・求めに応じてカスタマイズしたコンテンツは、同業のB社に対しても売れるだろう。こうなるとお客が商品を作ってくれる夢のお店状態だ。

アマゾンとの類似

 私が舟橋孝之社長を「なんか和製ジェフ・ベゾスっぽい」と評するのは、スキンヘッドネタだけではない。

 アマゾンがその成功のきっかけを掴んだのは、圧倒的に多様性があり、リアル店舗では対応仕切れない「本」という商品をITに結びつけたからである。インソースにとって「本」に当たるのは「研修」だ。

 アマゾンがその地位を守れるのは、スケールメリットと物流インフラへの投資により、単に他の便利なEコマースというだけではもう追いつけないようにしているからである。インソースにとって倉庫や物流インフラに当たるのは、セミナールームや講師だ。

 アマゾンの価値が、倉庫で働く人ではなくて、ユーザの書いたレビュー・入力した個人情報・ブランド価値等にある、というのは、インソースのコアたる価値が、内部に蓄えられるコンテンツにあるのと同じである。

(講師の方々は倉庫のバイトと一緒にすんなよと思うかもしれないがモデル上の位置が同じというだけなので悪しからず。)

 人(講師)やハコ(セミナールーム)にお金がかかって利益率低いだろうという意見は、アマゾンが倉庫や物流へ投資を始めた頃に「IT企業の利点を捨てるのか」とフルボッコに叩かれていたことを思い出させる。

 アマゾンは社内で自分達のために作ったシステムをAWS(アマゾンウェブサービス)として他社にも売ることで、新たな成長を実現した。インソースも自社で作ったITシステムを他社にも売ろうとしている。

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