ジェラルド・J.S. ワイルド『交通事故はなぜなくならないか―リスク行動の心理学』★★★

交通事故はなぜなくならないか―リスク行動の心理学

 少し前にどこかの書評ブログで知りました。主に交通事故に関する本ですが、リスク管理に関する新しい知見をもたらしてくれました。

 著者は『リスク・ホメオスタシス理論』と呼んでいますが、要点を一行に要約すれば、

「人は安全だと感じると、その分取るリスクを増やして、もっと利益を上げようとする」

 ということです。

 直感的にもなんとなく納得がいきますし、よく考えると道理にもかなっています。

 やや広い捉え方をすれば、物事のリスク・ベネフィットを常に計算し続けることは脳の存在意義そのものです。

 この世で生きていれば、常に何かをする・しないの選択をしなければならず、選択するにはリスクとベネフィットの計算をしなければなりません。

 まったくリスクを取らなければ、少しのリスクを取った者に必ず負け、子孫は残りません。常に最大のリスクを取れば、すぐに死んでしまい、少し慎重だった者に取って代わられるでしょう。やはり子孫は残りません。

 まったくリスクを取らないことも、常に最大のリスクを取ることも、ベストである可能性はありません。常にベストはその中間のどこかにあります。

 しかも、リスク・ベネフィットは、生涯ずっと一定なはずもなく、毎年・毎月・毎週・毎日・毎時間・毎分・毎秒、常に移り変わっています。常に再計算しているはずです。

 人間の脳も、他の動物のものと同様、進化の過程でそのようにできているはずです。

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