『あなたも株のプロになれる: 成功した男の驚くべき売買記録』を読み直した。
著者が明治生まれという非常に古い本であり、電話で一日一回取引して翌日の新聞で株価を知るとか、何ヶ月もかけて自分でチャート描くとか、さすがに具体的な話はまったく参考にならず、全体的な評価は変わらない。
しかし今回、ただ一箇所このくだりだけは、現代でもまったく同じように通用する気がして印象に残ったのでメモしておく。
わかっていてもやらない人というか、決して変わらない人というか、ある種のだめな人と、そのような人がだめな理由、だめなままであり続ける理由、そういったものがうまく表現されている問答だと思う。
相場の勉強は、まず基本をしっかりやることです。歯を食いしばってでも、技術の習得を心がけるべきなのです。そして、それは即席であってはいけません。技術は一夜で上達するものではないからです。
確かに、技術に目を開き、技術の習得を心がけようと決心した当初は、目にみえて上達していくものですが、概して技術に足を踏込んだあとは徐々にしか上達していかないものです。ですから、いきなりむずかしい技術を知ろうとすることよりも、新しい出発点に立とうという決心と、頭の切替えが先決だということなのです
さて、いよいよこれから本格的な玉の入れ方、ポジションのつくり方に入っていくことにしましょう。相当具体的になり、心構えとか抽象論は避けることになりますので、まず頭の切替えとか目覚め方、受入れ方といったものについて触れておくことにします。
アマチュアの売買からプロの売買、あるいは正しい売買に脱皮するのは、決心したその日からでもできると前項で述べました。技術というものは、私のように株の売買をどこでするのかということすら知らなかった者でさえ、分割売買を意識せず自然に行なっていたくらいです。もちろん、読者のみなさんにもできるはずです。それを自分一人でやればよいのです。
私のような者のところへも「相場を教えてくれ」といってくる人がいますが、私には教えてあげられることはありません。教え方が下手なのでも、ケチなのでもなく、長い間かかって身につけた私流のものが、その人にも同じように通用するとは限らないからです。
つまり、私流の技術を与えることは不可能ですが、技術に上達するためにはどうしたらよいかということならば教えられるということです。そして、それはきわめて簡単なことです。以下、私のところへ来たある人との会話でそれを説明してみましょう。
「あなたは株の売買が一〇〇〇株単位だということをご存知ですか」
「もちろんです」
「売買は証券会社に注文することを知っていますね」
「ハイ」
「信用取引はもちろんのこと、現物売買でも資金いっぱいの、余裕をもたない売買をしては危険だということを知っていますか」
「ハイ」
「当てようといっぺんに大量売買をせず、分割したり、ためし玉から仕掛けていくということを知っていますか。たとえば一〇万株買うにしても、はじめは少しで出発し、感じを受止めながら進んでいくということですよ」
「承知しています」
「証券会社に利用されるのもお客、証券会社を利用して儲けるのもお客です。あなたは利用するお客にならなければいけないということを、腹の底まで十分に認識していますか」
「ハイ、決断するのは自分で、結果についても自分が責任をもつということでしょう」
「では、そのためには、場帖をつけ、自分の売買を記録し、資金量を考慮に入れながら売買し、証券会社やセールスマンを頼らず、自分なりの売買をしなければいけないのですが、それができますか」
「もちろんです。そのために教わりに来たのです」
「なにからなにまでご存知じゃないですか。それでは私がお教えすることはありません」
「いえ、私が教わりたいのはいまおっしゃったいくつかの必須項目を実行するための方法と、上手になるためのコツといいますか、儲ける具体的な方法なのですが……」
「あなたは生まれたばかりの赤ん坊ではないでしょう。決心すること、技術の向上の努力をすること、それくらいはご自分でおやりになったらどうですか。それすら他人の手をわずらわさなければできないのですか。
まあ、そういってしまったら身もフタもありませんね。では、こうしたらどうでしょう。いま手持ちの株がたくさんおありでしたね。それを全部といいたいところですが、そのうち見込みのないもの、高値づかみのもの、大きく損をしているものなどを処分して、新しい気持ちで新しい売買をおはじめなさい。あとはあなたの努力しだいです」
「いえ、いま持っている株は売ると損します。それが処分できてから、まったく新しい気持ちで新しい売買をやるにはどうしたらよいのかおききしているのです」
「それはいけません。将来のために場帖だけは毎日必ずつけるようにしなさいと申し上げれば私の役目はすむことになりますが、あなたがそういう心構えでは、おそらく一生実行できないでしょう。
あなたは正しいやり方を知っておられます。しかし、それを実行してはいません。それなのに、どうしたらよいかききに来られました。矛盾していませんか。また、将来実行しようということをききに来られましたが、これもおかしなことです。
いま、一生実行できないでしょうといいましたが、その理由を述べてみましょう。三つあります。まず、考え方が変わればすぐにもできるということを知るのは、実行してこそ価値があるということです。それを知り、しかも良い方法だと十分に承知していながら実行しないということは、考え方が変化したにもかかわらずやり方は従来のままということで、考え方とやり方が違っていることになります。必ず破綻が生じます。
次に、いまのやり方ではうまくいかないといわれますが、あなたのいうように、仮にいま持っている株が売れたら、つまりいまのやり方で成功したとしたら、新しいやり方でやっていくというのは変じゃないですか。簡単に考えてみて下さい。たとえば、いま八百屋をやっているがうまくいかないから魚屋をやりたいとしましょう。しかし、魚屋に転向するのは八百屋がうまくいってからにしようというのではおかしいでしょう。いまの八百屋がうまくいったら、なにも魚屋に転向する必要はないわけです。
三つ目は、いまのやり方がうまくいかないからこそ新しいやり方をききに来たといわれますが、すでにあなたはそのやり方について知っておられます。さらに細かい具体的な方法をここでお教えしたとしても、おそらくその実行はずっと先のことになるのでしょう。ですから、実行する段階になってからききに来るべきではないでしょうか」
とにかく、自分でやるようにしないと進歩があるはずがありません。読者のみなさんはその能力を十分に持っておられるはずです。あとは考え方を変えることと、実行あるのみです。



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