ピーター・ターチン『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』★★★★★

 原題 “End Times: Elites, Counter-Elites and the Path of Political Disintegration”(『終末期:エリート、カウンターエリート、そして政治的崩壊への道』)

 単に格差が拡大しただけでは、国家が崩壊したりはしない。民衆が貧しくなり不満が溜まっても、それを組織する者がいなければ大きな政治運動にはならないからだ。そして組織する者とは、エリートではあるが権力を握れずに現体制に不満を持つ者(カウンターエリート)である。

 ……というのが一番の骨子。現状のアメリカの分断やら、ポリコレの暴走といった話を理解するのにさらに役に立つ、これまであまりなかった別の角度からの補強という印象がある。

 一夫一婦制は一夫多妻制に比べて、このエリート過剰生産からの崩壊までのサイクルを遅くする。それはひとりの成功した男から、父親ほど偉大になれない人生に不満を抱く息子が再生産される数が違うからだ。

 ……という話は、サウジアラビア王家の話などを連想させるものがあり、真剣に検討するまでもなく、一面の真理をついていそうな気がする。

 『WEIRD』を読んだときも、現代においてさまざまな要因によって一夫一婦制が切り崩されているのは非常にまずいのではないかと思ったがその印象がまた強くなった。

 個別のエピソードやデータにどれほど説得力があるのか、あるいは人口が減少していき、 AIやロボットが普通に存在するようになるこれからの時代にも通用するのか、等の疑問はあるものの、間違いなく非常に重要で面白い本だと思う。

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