人類の自己家畜化そのものについては、『善と悪のパラドックス ーヒトの進化と〈自己家畜化〉の歴史』が一番良い本だと思うが、この本は政治的な部分にまで踏み込んでいて、独自の価値はあると思う。
以下はこの本のまとめではなく、政治面の意味合いについての私による解説
ジェノサイドを本能的・進化的・生物学的に説明することは、いくつかの理由から厳しく忌避されてきた。
- それなら避けられないor仕方ないという自然主義的誤謬に結びつくのを避けるため
- 悪は人間だけのもので自然は善という素朴的宗教的信念を守るため
- ナチスドイツのホロコーストが絶対唯一の究極悪であるという、ほとんどの政治勢力(イスラエル・ユダヤ人・倒した戦勝国・一般ドイツ人・自国の虐殺を一緒にされたくない共産主義国や敗戦国)にとって都合のいい立場を守るため
そのため、時にはチンパンジーについての観察結果をねじ曲げてまで否定されてきたが、証拠が積み重なり流石にもう通用しなくなってきた。
集団で他集団の同種個体を非人間的化して虐殺するのは、チンパンジーとの共通祖先から存在する、れっきとしたヒューマンユニバーサルな生得的進化的行動レパートリーだ。
この明らかに不愉快な見方を受け入れることによって、代わりに得られるものは、よそ者の非人間的化が大変よろしくない等の、直感的には当たり前のことにも、科学的・生理的・進化的裏付けが得られるかもしれないということだ。
たとえば、今日政治的にホットな、
- 何が単に批判的な意見で何がヘイトスピーチなのか?
- 誰が単にアナーキーでない人で、誰が排外主義の差別主義者なのか?
という問題に、もしかしたら脳を測定して客観的な答えを出せるようになるかもしれない。
それは簡単ではないだろうし、別の問題も出るだろうし、基準をどこにすべきかだって、すぐに衆目が一致することは、たぶんないだろう。しかし、そもそもこのような見方を受け入れないのであれば、おそらく思いつくことすらなかった可能性だ。
最後に印象深かった見開きをひとつ。ネットでよく言われる「極左と極右は実は同じ」的な、雑だが言わんとすることはわかる意見は、たぶん解像度を上げるとこのことを言っていると思われる。




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